南極観測隊に立ちはだかるのは…アデリーペンギン!動物たちとのエピソードに思わずほっこり【作者に聞く】
2023年記事全国
この記事は2023年GW(ゴールデンウィーク)おでかけトピックス特集のものです。最新トピックスはこちら
いよいよ待ちに待ったゴールデンウィーク。おうちでゆっくり過ごす予定なら、漫画を通して“未知の世界”を冒険してみるのはいかがだろう。今回は、地球最後の秘境「南極」への旅路に焦点をあてた、ふくのうみ(
@umi_sousaku
)さんの『ふじと南極のなかまたち』をご紹介。
本作は、昭和40年に東京から出港した、日本初の砕氷艦である南極観測船「ふじ」の旅を描いたコミックエッセイ。出港時の家族とのつらい別れや道中で船酔いに苦しむ観測隊員、サイレン音に驚きもせず観測船に集まってくるペンギンたち――など、実話をもとに漫画ならではのフィクションを交えた作品が、Twitterで大きな反響を呼んだ。
限られた人だけしか訪れることのできない南極の旅は、まさに驚きの連続!南極観測隊のエピソードをどのように得ているのかも気になるところだ。作者のふくのうみさんに南極を題材に漫画を描き始めたきっかけや、創作上のこだわりなどを伺った。
「ふじ」に興味を持ったことが漫画を描くきっかけに
もともと昔の船が好きで、保存船を見に行くのが趣味だったふくのうみさん。漫画を描き始めたきっかけも「ふじ」だったという。
「もともと昔の船が好きで、現役の船というよりは保存船を見に行くのが趣味だったのですが、『そういえば地元の名古屋港にもオレンジ色の保存船があったな』と足を運んでみたのがきっかけです。それが漫画にも出てくる『ふじ』でした。
それまで南極のことはまったく知らなくて、南極海の氷を割る船といったら、何かすごい武器みたいなのが付いていると思ったんですけど、中の説明を見たらまさかの“体当たり”……!そのシンプルで少年漫画のような熱さに惹かれて、詳しいことを調べ始めたのがきっかけでした」
「ふじ」に興味をもったものの、肝心の南極に何をしに行くのかは知らず、この船が現役時代にどういう活躍をしていたのかを知るために、初代艦長の著作「『ふじ』南極航海記」を取り寄せたのだそう。
「そこにこんなエピソードがあります。『ふじ』が氷の上に即席の港を作ろうとしていたときのことです。氷に向けて艦を直角に向けたところ、真向こうにアデリーペンギンが立って艦を眺めていて、サイレンを鳴らしても知らん顔。艦はペンギンがどくのをあきらめて、横着けすることになったというものです。大きくて強い船が、南極先住者のペンギンたちには道を譲る様が、なんとも可愛らしく、優しい風景に見えます。
それをきっかけに、アデリーペンギンの動画を見たり、実物を見に行ったりしたのですが、コミカルで可愛くて微妙にガラの悪い姿にすっかりハマってしまいました。思えば、南極の入り口はアデリーペンギンだったようです」
南極に行った人の話は興味深いものばかり
漫画で描かれる南極観測隊のエピソードは、南極関連の書籍を参考にするほか、実際に南極に行った人から話を伺ったこともあるという。
「南極関連の書籍は多く出版されていて、いろいろ参考にしながら漫画を描いています。また、実際に南極に行った人からお話を伺う機会もありました。赤道祭で女装で踊った話や、マグロを釣ろうとしたらサメが釣れてしまった話などは実際に聞いた話をもとにしています。『ふじ』の船内生活や、南極でのできごとは、日本で普通に生活していては体験できない、興味深いできごとばかりです」
漫画を描く上でこだわっているポイントは、やはり「ふじ」だという。漫画を読む上で、そのリアルな描写にも注目してほしい。
「実は『ふじと南極のなかまたち』を描く前は、幕末時代の蒸気帆船を舞台にオリジナルの漫画を描いていたことがありました。そのとき困ったのは、背景が全然分からないことでした。幕末の船は残っている写真が少なかったり、参考になる施設が遠かったりと、常に描きづらさを抱えていました。その点、名古屋港に係留されている『ふじ』は本物です。私は名古屋市在住なので場所も近く、実物が撮り放題、描き放題…。この点を活かして公開されている場所はなるべく漫画に描きたいと思っています」
「それから、この漫画はカラーで描いていますが、『ふじ』のオレンジ色の船体が一番鮮やかに目立つように、他の背景やキャラクターは少しくすんだ色に設定しています。また海の色も、日本近辺と赤道あたり、南極海では全然色が違うので、少し意識して塗っています」
南極で流行っていたゲームとは?
漫画の中で、ふくのうみさん自身が特にお気に入りなのがゲームにまつわるエピソード。自身の出身地との意外な縁を感じたという。
「昭和基地と『ふじ』では、『キャロム』というボードゲームでみんな余暇を楽しんだそうです。指でコマを弾くビリヤードのようなゲームです。実際にやってみると、けっこうマジになります。このゲームと似た「カロム」というボードゲームが滋賀県の彦根市で今も人気です。私は滋賀県出身なので、少しだけ縁を感じてぜひ描きたかったエピソードです」
読者からの反響が大きかったのは、やはりペンギンとの交流を描いたエピソードだという。Twitter上でも「何考えてんのかわかんないペンギンの姿が大好き」「人間みたい…」とペンギンに癒やされる人が続出。南極に住む動物たちの知られざる生態について学べるのも、この漫画の魅力だ。
「やはり、かわいらしいペンギンとの交流を描いた漫画は反響が大きいです。私自身、南極の漫画を描くようになってから、ペンギンの生態に興味を持つようになりました。ペンギンの翼は海中を泳ぐのに特化していて、空を飛ぶ鳥に比べて骨が重く硬いので、ペンギンの翼で叩かれるととても痛いそうです」
観測船を見ることで南極が本当にあることを実感
最後に、ふくのうみさんから見た南極や南極観測隊の魅力を伺った。
「日本の南極観測は1957年に始まり、現在まで60年以上に渡って続けられています。地球の秘密を知りたいという熱い思いが受け継がれてきた、リアルタイムで、ホットで、ワクワクする興味深い世界です。
その活動を支える観測船も、現在の『しらせ(AGB5003)』で4隻目。南極へ行くことは私には簡単ではありませんが、船を見ると、南極は本当にあるんだなあ、そこで本当にがんばってる人たちがいるんだなあと実感できます。そのワクワクする世界の隅っこに自分もまた生きているのだと、誇らしく感じられるところが魅力です」
ふくのさんが『ふじ』を好きになったきっかけでもある砕氷航行のシーンもたっぷり収録されている「ふじと南極のなかまたち」(上・下)の2巻。今年のゴールデンウィークはドキドキワクワク、胸が高鳴る南極探検へと繰り出そう!
取材協力:ふくのうみ(@umi_sousaku)
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