どうしてブスが…差別されている側の人間が変わらなくちゃいけないんだよ!ルッキズムを打ち壊す話題作「ブスなんて言わないで」作者インタビュー

2023年記事

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この記事は2023年GW(ゴールデンウィーク)おでかけトピックス特集のものです。最新トピックスはこちら

そのタイトルから「ブスが整形して復讐する系」ストーリーと間違われることが多いという、&Sofa(アンドソファ)連載中の「ブスなんて言わないで」。しかし、物語の中心人物としてブスと美人という構図は描かれているものの、ブスが美しく生まれ変わって復讐を遂げるような物語ではない。ブスにはブスの、美人には美人の、それぞれの地獄がある。ルッキズムをテーマにシスターフッドを描くこの作品について、作者のとあるアラ子( @unmeichimai )さんに語ってもらった。

ルッキズムとは人を見た目で判断する価値観のこと

「ブス」だからという理由でいじめられたことがトラウマとなり、人前ではマスクや帽子で顔を隠しながら生活する山井知子33歳。まともに就職もできず、最低賃金のアルバイトでなんとか生計を立てている。

「ブスなんて言わないで」 1/60
「ブスなんて言わないで」 1/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 2/60
「ブスなんて言わないで」 2/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 3/60
「ブスなんて言わないで」 3/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 4/60
「ブスなんて言わないで」 4/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 5/60
「ブスなんて言わないで」 5/60とあるアラ子( @unmeichimai )


そんなある日、高校時代に自分をいじめた張本人である「美人」の白根梨花が美容研究家として成功し、さらには反ルッキズムの活動を行っていることを雑誌のインタビュー記事で知る。ルッキズムとは人を見た目で判断する価値観のこと。「ブスなんていない、自分に自信を持とう」白根梨花のメッセージに知子は絶望する。

「ブスなんて言わないで」 13/60
「ブスなんて言わないで」 13/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 14/60
「ブスなんて言わないで」 14/60とあるアラ子( @unmeichimai )


「ブスなんていない」?は?ここにいますけど?

ルッキズムの蔓延した社会で美人が発信する「ブスなんていない、自分に自信を持とう」という言葉に、知子は深く傷つく。まるで自身の存在すら否定されたように感じたのだ。知子は意を決して白根梨花を訪ねる。

「ブスなんて言わないで」 28/60
「ブスなんて言わないで」 28/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 29/60
「ブスなんて言わないで」 29/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 30/60
「ブスなんて言わないで」 30/60とあるアラ子( @unmeichimai )


美人は生きてるだけで勘違いをされ続ける

一方で、美人として知子と対のように描かれる白根梨花にも苦悩はあった。見た目だけで中身を見てもらえないことに、白根梨花もまた傷つきながら生きてきた。そう、美人には美人の地獄がある。見た目だけで判断されるのは、ブスであろうと美人であろうと同じことなのだ。社会の価値観がルッキズムに支配されている限り。

「ブスなんて言わないで」 41/60
「ブスなんて言わないで」 41/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 42/60
「ブスなんて言わないで」 42/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 43/60
「ブスなんて言わないで」 43/60とあるアラ子( @unmeichimai )

「ブスなんて言わないで」 44/60
「ブスなんて言わないで」 44/60とあるアラ子( @unmeichimai )


山井知子には山井知子の、白根梨花には白根梨花の、それぞれの過去と経験、そしてそれに基づく考えがある。メイクの力で自分自身を肯定する本来の美容によって、知子に自信を取り戻させたい白根梨花と、差別される側が変わる必要なんてない、変えるべきは社会のほうだと信じている山井知子。この物語はまさに、ブスと美人の、価値観と価値観の格闘技だ。

さらに、過去拒食症に苦しんだプラスサイズモデルの奈緒美、身長160センチ未満のイケメンカメラマン小坂、ブスをネタにすることで売れていた元お笑い芸人デパ子、「モテ」や「愛され」ブームを生んだ雑誌編集長・石田、どこにでもいるちょっと可愛いだけのミスコン参加者有紗、美しくあることを押し付けられる属性に生まれた娘のため社会を変えたいミスコンプロデューサー崎元、ルッキズムをキーワードに登場人物たちの価値観が交錯していく。

女性向け漫画の中で“ブス”がどのように描かれてきたか

作者のとあるアラ子さんに、作品について聞いた。

ーー登場人物がそれぞれコンプレックスや呪いを抱えて生きているように見えます。群像劇で描こうと考えた理由を教えてください。

【とあるアラ子】ルッキズムをテーマにして漫画を描こうと考えた時に、パッと頭に浮かんだイメージが群像劇だったんです。海外ドラマの影響が大きい気がしますね。「ダウントン・アビー」や「セックス・エデュケーション」、「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」など、複数の登場人物を丁寧に描く作品にハマることが近年とても多くて。話が進むにつれて、最初は「悪人」としてだけ描かれていた人物が、実は複雑な事情を持つキャラクターだったと明かされていく…というようなストーリーに心惹かれるんですよね。

ーーこの作品は、どんな層の人たちに最も届いてほしいですか?

【とあるアラ子】「ブスなんて言わないで」を連載している「アンドソファ」が、女性をターゲットにしたサイトということもあり、やはり私自身も女性を意識してストーリーを考えることが多いです。ただSNSで検索すると、男性で読んでくださってる方もかなりいらっしゃるようです。想定してなかった読者層にも届いてるのはすごく嬉しいことですね。

ーールッキズムという言葉を知らないという人もまだまだ多い日本社会のように思います。ルッキズムがテーマであるこの作品に対して、どんな反響が多かったでしょうか。

【とあるアラ子】「思った内容と違っていた」という反応はとても多いです。「ブスが整形して復讐する」系のストーリーの漫画ってすごく多いので、表紙に“ブス”が描いてあると、その手の作品だと勘違いされてしまうみたいで……。コミックスの装丁をオシャレにデザインして頂き「復讐」っぽさを消したり、ヒロイン2人の身体が触れ合うような構図にすることで「シスターフッド」を描いた作品だと伝える工夫はしているのですが、なかなか「ブス=復讐モノ」という先入観を壊すのは難しいようです。あとは「説教くさい内容かと思ったら違った」という感想も多いですね。“ブス”が出てくる作品は、スカッとする勧善懲悪モノか、啓蒙的な内容のどちらかと思われがちなのでしょう。宣伝の難しさは感じつつも、女性向け漫画の中で“ブス”がどのように描かれてきたか、という事を考えるきっかけにはなりました。

「死にたい」絶望する知子の前に高校時代の自分の幻影が現れる
「死にたい」絶望する知子の前に高校時代の自分の幻影が現れるとあるアラ子( @unmeichimai )


「モテ」や「愛され」が生まれた背景があった


かつて、女性誌は「モテ」や「愛され」といった言葉で埋め尽くされていた。男性を中心とした周囲の「誰か」からモテること、愛されることが女性の幸せであるというメッセージには、常に女性が誰かのために存在しているようなイメージがあった。しかし今はもう、「モテ」や「愛され」は古い価値観であり、女性がおしゃれを楽しむのは何よりも「自分のため」であるということを女性たちは知っている。

その「モテ」や「愛され」もそもそもは、女の欲望を誌面に掲げることがタブーであった時代を切り拓いた、先人たちの努力の結果だったのだ。女がモテたいと口にすることすら許されなかった、そんな価値観を、呪縛を解放するために戦った女性たちもまた、いたのだ。本作の2巻には、保守的だった雑誌の路線を変えてきた女性誌の編集長・石田のエピソードがある。

ーー石田編集長が過去、日本の女性たちを呪縛から解放したというエピソードを盛り込んだ理由を教えてください。

【とあるアラ子】本作を連載するにあたり、美容やメイクの歴史について書かれた書籍をいくつか読んだのですが、知らなかったことがたくさん書かれていて驚きました。例えば、現在では女子中高生のメイクは好ましくないものと扱われがちですが、明治時代には教育者が女学生の化粧を推奨したりしてたんですよね。自発的に考えたと思っている価値観が、単なる流行りでしかないってこと、きっと想像以上にたくさんあるんだろうと思うんです。過去に比べたら今は先進的でマシになってると思いきや、また別の「流行」に移行してるだけ、みたいなことも……。

自分を殺しにきた知子に来週から雇うと告げる梨花
自分を殺しにきた知子に来週から雇うと告げる梨花とあるアラ子( @unmeichimai )


ルッキズムはブスと美人だけの問題ではない


あらゆる立場の、あらゆる属性の人たちの経験、考え方、そのどれもがルッキズムについて考えるきっかけをくれる。この先、物語がどんな方向へ向かうのか、とても楽しみだ。

ーー物語の結論はもう決まっているのでしょうか。

【とあるアラ子】物語の結末は連載当初から決めていて、担当の編集さんにも既に伝えてあります。もちろん、連載を続けていく中で私の考えが変わることもあると思いますが。あと、今考えているアイデアが古くなってしまって変えざるを得ない、なんて事もありそうですよね。時代性を貪欲に取り入れるのが「ブスなんて言わないで」の面白さだと思うので、世の中の移り変わりをしっかりと観察して最後まで描き続けたいと思います。

ーー読者やファンのみなさんに伝えたいメッセージなどがあればお願いします。

【とあるアラ子】「映像化して欲しい」という読者さんの声をネットで見かけますが、作者も全く同じ気持ちです(笑)!実在の人間が知子や梨花が演じるとなると、キャスティングから何からすごくハードルが高そうですが、どんな形になるのか見てみたいです。そのためにも、もっと多くの人に読んでもらって、しっかりと“話題作”になれるように頑張りたいと思います。これからも「ブスなんて言わないで」をどうぞ宜しくお願いします。

ブスにはブスの、美人には美人の地獄がある。ルッキズムをめぐり、果たして結論はどうなる?
ブスにはブスの、美人には美人の地獄がある。ルッキズムをめぐり、果たして結論はどうなる?とあるアラ子( @unmeichimai )


「この世にブスなんて存在しない」「自分に自信を持ちましょう」という梨花の言葉は早々に主人公である知子によって否定されている。では一体、このルッキズムの物語はどこに落ちるのか。最後までしっかりと見守りたい。




取材協力:とあるアラ子(@unmeichimai )/講談社

詳細情報

■とあるアラ子
Twitter:https://twitter.com/unmeichimai/
&Sofa(アンドソファ)/講談社 連載ページ *毎月第1月曜更新
https://comic-days.com/episode/3269754496533948579?from=andsofa
Kindle:https://t.co/yTWsytkbzR

■単行本
「ブスなんて言わないで」1〜2巻
「美人が婚活してみたら」全3巻
「わたしとあの子は絶対ちがうの」
「愛する人のソレじゃなくても」全6巻
「あなたよりちょっとマシな私でいたい。」
「100日後に会社を辞めるOL」
情報は2023年5月3日 13:00時点のものです。おでかけの際はご注意ください。

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