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むき出しのエネルギーが時代を動かした。90年代英国アートの熱気をたどる「テート美術館 — YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」
東京都
1990年代のイギリスには、何か新しいものが弾け飛ぶような、特別な熱気があふれていた。音楽、ファッション、そしてアート。ジャンルの壁を軽々と飛び越え、若者たちの言葉にできないモヤモヤや、飾らない本音が、そのままアートとして力強く生まれ変わっていく時代だった。そんな当時の熱い空気をそのまま閉じ込めたような展覧会「テート美術館 — YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」が、東京・六本木の国立新美術館で開催されている。
世界トップクラスの現代アートを所蔵するテート美術館から、約60名の作家によるおよそ100点の作品が集結した。これまでの常識をひっくり返し、アートの新しいルールを作った彼らの歩みは、今の私たちの目に、どう映るのだろう。
大人のルールを飛び越えて。巨匠の熱を受け継ぎ、街のリアルを描き出した若者たち
会場に足を踏み入れると、「序章 フランシス・ベーコンからブリットポップへ」が幕を開ける。ここで迎えてくれるのは、20世紀美術史において最も著名な画家の一人であるフランシス・ベーコンの最晩年の作品《1944年のトリプティック(三幅対)の第2ヴァージョン》だ。東西冷戦が終焉を迎え、世界が混迷していた時代に描かれたこの絵画には、暴力や苦痛、そしてむき出しの感情が強烈な生々しさをもって表現されている。
不都合な真実から目を背けず、人間存在の暗部を深く掘り下げようとするベーコンの姿勢は、90年代の英国の新しい世代のアーティストたちに大きなインスピレーションを与えた。芸術と生活が複雑に絡み合う現実を捉えようとし、かつてないほど強く率直な感情表現で作品制作を開拓しようとする若い作家たちの意思こそが、この展覧会全体の中心を貫いているのだ。
続く「第1章 ブロークン・イングリッシュ ― ニュージェネレーションの登場」では、サッチャー政権下の自由市場経済によって格差が広がり、多くの人が職を失った90年代初頭の英国社会の揺らぎが背景として描かれる。アイデンティティや共同体のあり方が問われるなか、新しい世代のアーティストたちは自らの肌で感じる不安定な現実を創作のテーマにしていった。
その起点となったのが、1988年にロンドン東部の使われなくなった冷蔵倉庫で開かれた伝説のグループ展「フリーズ」だ。当時学生だったダミアン・ハーストが企画し、同世代の作家たちの作品を集めたこの展覧会は、伝統的なギャラリーという枠組みからの決別であり、若者たちの生のエネルギーと革新的な精神の宣言でもあった。ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)の快進撃はここから始まったのだ。
さらにこの時代は、多文化社会における黒人やアジア系コミュニティの存在感が高まった時期でもある。アフリカやカリブ海、南アジアにルーツを持つアーティストたちもまた、植民地政策などの歴史を考察し、伝統的な「英国らしさ」という概念に鋭く揺さぶりをかけていった。
「第2章 おおぐま座 ― 都市のイメージをつなぐ」へと歩みを進めると、当時のイギリスが直面していた厳しい現実が見えてくる。1990年代初頭、経済不況によって都市開発は停滞し、街には空き店舗や廃墟が目立つようになっていた。公的な支援も極めて少ないなか、若いアーティストたちはこうした都市の「打ち捨てられた場所」を安価なスタジオや展示スペースとして見出し、たくましいDIY精神で創造の場へと変えていったのだ。
彼らは、急速に変化する都市の姿に目を向けた。再開発(ジェントリフィケーション)による経済格差の広がりや、失われていく地域社会のアイデンティティに対し、批判的なまなざしを向ける。打ち捨てられた物や空間を作品に取り込みながら、都市に漂うメランコリー(憂鬱)や人々の疎外感を、鋭くも創意工夫に満ちた表現で浮き彫りにしている。
音楽やファッションと溶け合う。ジャンルの壁を越えて熱狂したカルチャー
あの時代を語るうえで絶対に外せないのが、音楽やファッションとの深いつながりだ。「第3章 あの瞬間(とき)を共有する:音楽、サブカルチャー、ファッション」の空間を歩けば、当時の熱気がそのまま肌へと伝わってくる。
1990年代のイギリスでは、美術、広告、ファッション、そして音楽といったジャンルの壁が取り払われ、互いに刺激を与え合っていた。社会のルールに挑みながらも若者たちに強いつながりをもたらした「ブリットポップ」や「レイヴ・カルチャー」。『i-D』や『ザ・フェイス』などの雑誌が牽引したストリート・ファッションから、ヴィヴィアン・ウエストウッドやアレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノらが手掛けるオートクチュールまで、独自のカルチャーが次々と花開いた。
こうした熱狂のなかで、アーティストたちもまた、アートの古い枠組みを打ち破るために音楽の持つ「開放的な力」を作品に積極的に取り入れていく。雑誌、サンプリングされたサウンド、既存の映像をつなぎ合わせたファウンド・フッテージなどを用いた作品群には、目まぐるしく変わる社会のなかで「かけがえのない瞬間」や「人とのつながり」を大切にしようとする価値観が込められている。彼らが作り上げた恍惚感あふれるイメージは、理屈ではなく「今この瞬間に生きている」という鮮烈な実感を与えてくれるはずだ。
心の痛みも、何気ない日常も。ありのままの自分をさらけ出した等身大のアート
熱狂の裏側にある、静かで深いテーマにハッとさせられるパートもある。「第4章 現代医学」は、1990年に開催され、英国美術史の画期的な出来事とされる同名の展覧会にちなんだセクションだ。ここでは、アーティストたちが医学や科学に対する倫理的ジレンマに関心を抱き、人間の身体と心の複雑な関係と向き合っている。解剖学や病、メンタルヘルス、そして苦痛を感じる身体までを捉えた作品群は、私たちの感覚や思考を激しく揺さぶる。
さらに、1980年代から90年代にかけて世界を覆ったHIV/エイズ危機という深刻な背景も横たわっている。恐怖や社会的な偏見が渦巻くなか、当時のクィアのアーティストたちは、エイズの影響下で生きる率直な心の内や、歓び、アイロニー、そして力強い抵抗のあり方を示してみせた。命や身体のリアリティと真正面から向き合った作品の数々に、思わず足をとめて見入ってしまう空間だ。
続く「第5章 家という個人的空間」では、多くのアーティストたちが「家族」や「家」にまつわる従来のイメージに挑戦している。彼らは、安らぎの場所と思われがちな家庭生活の生々しく混沌とした現実を、あえて展示空間に持ち込んだ。人間の弱さや不安、社会的な衰退が顔を出す最も親密な場としての「家庭」を、日用品などのオブジェを用いて正面から提示したのだ。
さらに、当時の華やかな国家スローガン「クール・ブリタニア」のイメージに逆らうように、皮肉やユーモアを交えてジェンダーやメディアのステレオタイプを批判する作品も並ぶ。都市の再開発で消えゆく生活空間を証言するような慎ましいオブジェの数々は、個人的な空間がいかに私たちの人生や価値観を形作っているのかを、強く問いかけてくる。
そして展示は「第6章 なんでもないものから何かが生まれる:身近にあるもの」へとたどり着く。ここでは、それまで芸術作品には適さないと思われていた、安価で手に入りやすい日用品を素材とした作品が並ぶ。これは、現実の経験から離れすぎていると感じられた80年代のコンセプチュアル・アートへの反動でもあった。
日常の品をそのまま使ったり、思いがけない大きさに作り変えたり、あるいはごくわずかに手を加えるだけにとどめたりと、アプローチはさまざまだ。しかし、どの作品も、私たちが見過ごしがちな身近なものに対する意識を鮮やかに刷新してくれる。あまりにも身近すぎて自己消滅の境界を漂うような作品群は、最もささやかな介入が、実は最も大きなインパクトを与えられるというアーティストたちの発見を伝えている。
齋藤飛鳥さんも圧倒された、直接的な言葉で語りかけてくる作品たち
開幕前に行われたオープニングセレモニーの言葉からも、この展覧会が持つ惹きつけられるような魅力が伝わってくる。本展のアンバサダーを務める齋藤飛鳥さんは、展示室を巡った興奮そのままに語った。
「どの作品においても作られている意図がとってもはっきりしているし、すごく強いエネルギーがあるので、圧倒されるものがすごくあって、とっても心が動く作品がたくさんあるなと感じました」
特に彼女が惹きつけられたという入り口のフランシス・ベーコンの赤い作品については、こう語る。
「入り口入ってすぐのところにある、フランシス・ベーコンの赤い3つ並んでいるあの作品は、この時代背景もちょっと汲み取れるような感じもしますし、何となくこちらに恐怖感みたいなものも与えるけれど、すごく深く考えさせられるような作品だと思うので、とっても好きです。私はアートに詳しいわけではないのですが、そういう方が見て回っていただいたときも、色のインパクトや雰囲気などを感じ取っていただけるんじゃないかなと思います。今日もそれに合わせて赤いドレスを持ってきました」
また、テート・ブリテンのキュレーターであるヘレン・リトルさんは、イギリス本国でも90年代を振り返る気運が高まっていることに触れ、こう語る。
「当時の時代を直接知らなくとも、現在私たちが直面している問題に重なるテーマがそこにはあります。一人ひとりの作家が非常に強い物語を伝え、直接的に語りかけてくることが本展の魅力です」
彼女が言うように、難しい理屈はひとまず忘れて、まずは実際の作品から放たれるエネルギーを体感してみてほしい。当時のアーティストたちがぶつけた飾らない表現は、時代を超えて今の私たちにもダイレクトに響くはず。
音楽と声でさらに深く味わう。Vaundyのテーマソングと、細野晴臣・齋藤飛鳥による音声ガイド
これは、過去の熱狂をただ懐かしむだけの展覧会ではない。会場には、今の視点からあの時代を見つめ直すような、新鮮な空気が流れている。
公式テーマソングとしてVaundyさんが書き下ろした楽曲『シンギュラリティ』は、時空を超えた「ものづくりへの愛」を歌い、ゼロから何かを生み出し、ひとつの特異点へと向かっていくエネルギーを表現しているという。それはまさに、YBAのアーティストたちが90年代のロンドンで泥臭く見せてくれた姿そのものだ。
さらに、会場での体験をより深くナビゲートしてくれるのが、本展のアンバサダーを務める細野晴臣さんと齋藤飛鳥さんによる音声ガイドだ。世代を超えてカルチャーを牽引し、またアートに触れてきた二人の言葉を通して、作品の背景や当時の熱気をより身近に感じることができる。
音声ガイドの収録について、齋藤さんはその時の思いをこんなふうに振り返っている。
「皆さんがこうやって素晴らしい作品を見るのを、お邪魔してはいけないと思って、皆さんが静かな空間で素敵な作品を見ているときに、ちょっと耳にその作品の解説、そしてわかりやすく届けられるように、何となく何かこう添えられるものがあればいいなと思いながら一生懸命声を入れました」
手持ちのスマートフォンを使って自分のペースで聴くことができるので、ぜひイヤホンを持参して、二人の語りとともに作品と向き合ってみよう。
時代が変わり、世の中の仕組みが変わっても、人間が何かを表現したいと願う根っこの部分は変わらない。音楽や言葉のナビゲーションとともに味わうむき出しのアートの数々が、今の私たちに直に響いてくる。
スタイリッシュに楽しむ。ファッション性の高いオリジナルグッズに注目!
会場内の特設ショップには、ダミアン・ハーストやジュリアン・オピー、ルベイナ・ヒミドらの作品を用いた展覧会オリジナルグッズが多数並んでいる。強烈なインパクトを残した作品たちを、日常の中でさりげなく楽しむことができるのがうれしい(※ショップの利用には観覧チケットが必要)。
テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート
会期:2026年2月11日〜 5月11日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)
開館時間:10時〜18時(毎週金・土曜日は20時まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日(5月5日(祝)は開館)
観覧料(当日券):一般 2300円 / 大学生 1500円 / 高校生 900円 / 中学生以下無料 ※障害者手帳を持参の方(付添の方1名含む)は入場無料
※東京展の後、2026年6月3日(水)〜 9月6日(日)の期間で、京都市京セラ美術館(新館 東山キューブ)へ巡回予定。
※記事内に価格表示がある場合、特に注記等がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。
取材・文・撮影=北村康行
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